2011年12月04日

アメリカ連盟を悩ました三つのG

3G.jpg


 2009年2月28日、EOの会が開催されました。今回はスカウティング研究センタ事務局長黒澤岳博氏(埼玉連盟三郷第1団VSL、埼玉県庁勤務)をお迎えして,「インターネットに見るスカウティング研究 −法学分野を中心に−(仮題)」の講演をしていただくきました。ボーイスカウト運動でどのようにネットワークが活用されているかのお話に続き、その中よりの話題として「3つのG」と題したGirl(女子加入) 、Gay(同性愛者の加入)、Godiess(無神論者加入) など、アメリカ連盟で訴訟となった事例の紹介などがありました。恐らくわが国ではあまり知られてはいません。連盟の勝訴の形で終えたとの事ですが、とても興味深いお話の数々を拝聴することができました。


【当日説明用に用意された資料から】
 ※説明時、パワーポイントで作成した資料に沿ってお話がありました。それをそのままテキストにして貼りつけています。念のため、その資料をpdfで見て頂く事ができるようにしました。格納先のurlは以下の通りです。


インターネットで見るスカウティング研究−法学分野を中心に−
ボーイスカウト三郷 1団 黒澤岳博 06/30

T.はじめに
Uアメリカのボーイスカウトに関連した判例
・「godless(無神論者)」に関するもの
・「girl(女性)」に関するもの
・「gay(同性愛者)」に関するもの
V.同性愛者は成人リーダーとして認められない
W.少年院等矯正施設におけるスカウティングに関する記述
X.まとめ

<はじめに>
・法学分野においてボーイスカウトに関する論文を雑誌記事検索データベース等を利用して検索
・ボーイスカウトアメリカ連盟とゲイ (同性愛者 )の裁判に関する人権問題
・少年院等矯正施設におけるスカウト活動に関する事例

T.はじめに
本報告
アメリカの論文
Goodman,Merissa L.,「 A Scout is morally straight,brave,clean,trustworthy...and heterosexual? Gays in the Boy Scouts ofAmerica.」( 1999)からアメリカ連盟が直面したいくつかの裁判について簡単に紹介
・Dale v. Boy Scouts of Am.について解説
・少年院等矯正施設におけるスカウト活動の例を紹介した記事について解説

U.アメリカ連盟に関連した判例
・ボーイスカウトアメリカ連盟は、「3つのG」に関してこれまでいくかの問題に対応
 「 godless(無神論者)」、「 girl(女性)」、「 gay(同性愛者)」

アメリカ連盟は、この3つのGに関連して、いくつかの裁判に巻き込まれている

1.「godless(無神論者)」に関するもの
Welsh v.Boy Scouts of Am. 993 F.2d 1267,1268(7th Cir.1993)
・神に「ちかい」をたてなかったことから、原告が加盟を認められなかった。
Randall v.Orange County Council,Boy Scouts of Am. 952 P.2d 261,262(Cal.1998)
・信仰関連のプログラムに参加しない原告をボーイスカウトとして認めない。 .いずれも「各自が明確な信仰心をもつ」というものに反しているというもの。無神論者を明確に否定しているアメリカ連盟の実例である。

2「girl(女性)」に関するもの
Yeaw v.Boy Scouts of Am.,64 Cal. Rptr. 2d85,85(Cal. Ct. App.1997)
・「女性であるためにリーダーになれないのは、カリフォルニア州権利章典に反する」との訴え。「ボーイスカウトはその結社の自由から女性を排斥してもよいとするものである。」との判決

3.「gay(同性愛者)」に関するもの
Dale v. Boy Scouts of Am. 706 A.2d270,276(N.J. Sup. Ct.App Div.1998)
・同性愛者は成人リーダーとして登録できないとした
.Richardson v. Chicago Area Council of the Boy Scouts of Am., No.92-E-80,1996 WL
734724(Chi.Comm'n Hum.Rel.Feb.21,1996)
・同性愛を公言している者の事務局雇用を禁止した、Dale vs BSAの詳細を次で見ていきます。
-訴訟にいたる経緯-
 アメリカ・マンモスカウンシルに所属する JamesDale( 1970年生まれ)1978年カブスカウト、81年にボーイスカウトに入隊。88年にイーグルスカウトとなる。ラトガーズ大学入学と同時期に BS隊副長就任、学内での活動において同性愛者であることを表明、彼に対するインタビューが写真入りで新聞に大きく取り上げられたことにより問題が発生
-訴訟に至る経緯 2-
 1990年7月下旬、 Daleはマンモスカウンシルの役員から彼の登録取り消しに関する通知・理由について確認したところ「ボーイスカウトは同性愛者に対する構成員資格の授与を明確に禁じている」との回答。.Daleはニュージャージー州裁判所にアメリカ連盟を告訴
-Dale vs BSA(州裁判所判決)-
ニュージャージー州最高裁判所は Daleが勝訴。ボーイスカウトがその構成員の道徳心の向上を促すことを信条としていることは認めた。ボーイスカウトが同性愛が反道徳的であるという立場を保持することを信条としているとは認められない。
 Daleが構成員であってもボーイスカウトの表現的結社の自由は侵されないとした。この裁判については、2000年6月28日に米国最高裁はニュージャージー州最高裁判所の判決を破棄差し戻しとした。(詳細は後述)
-連邦裁判所判決の判断-
本判決は、5対4の僅差で意見が分かれたが、多数意見は次のとおり。
表現的結社の自由
ボーイスカウトが表現的結社かDaleの登録を強要することが、表現的結社の自由に対する重大な制約となるか
・公共的施設法に基づき表現的結社の自由を制約することの許容性
(1)表現的結社の自由
 本裁判は、ある団体にとって望ましくない構成員の受け入れを、法令によって当該団体に強要すること
政府がその団体の権利(表現的結社の自由)を侵す形態の一つ。本件ではアメリカ連盟はこの権利を侵されていると解する。
(2)ボーイスカウトが表現的結社か
 ボーイスカウトは、成年構成員が未成年構成員に対してその価値観を広めていくことにより、その立場を表明している。すなわち、表現的結社であることが明らかである。また、「ちかい」と「おきて」によれば、ボーイスカウトが未成年者に価値観を広めることを使命としていることは明らかである。ボーイスカウトの隊長や副長は、キャンプなどの活動を通じて、言葉や行動を持ってその価値観を教えている。
(3)Daleの登録を強要することが表現的結社の自由に対する重大な制約となるか
 1978年のアメリカ連盟総長等による宣言「 BSは私的な会員組織。そのリーダーになることは、名誉ではあっても保障された権利ではない。我々は同性愛者がリーダーになることを適切でないと考える」。明確に同性愛者のリーダーを否定。Daleは自ら同性愛者であることを認めている。Daleをリーダーとして認めることは、ボーイスカウトが同性愛行為を正当なものであると認めたというメッセージを未成年構成員および一般社会の双方に対して送ること。 これはアメリカ連盟に対し重大な制約となる。
(4)公共的施設法に基づき表現的結社の自由を制約することの許容性
 ニュージャージー州法では、性的指向(同性愛者であるかどうか)によって公共施設で差別することを禁じている。
 州最高裁判所ではボーイスカウトは公共施設=同法の適用対象であるとし、同法の適用は合衆国憲法上の表現のための結社の権利の侵害には当たらないと判断。
しかし、合衆国最高裁は、厳格な基準を適用すべきであるとし、結社の自由の侵害に当たると判断した。
アメリカ連盟の判例から(黒澤)
 本判決は、「平等と自由との相克」という古くからの問題を「同性愛」という比較的新しい切り口から扱ったものとして、国内でも研究論文がある。アメリカにおけるこれらの判例により、日本のボーイスカウトでも今後いくつかの点について対応を検討しておかなければならない。「女性」に関しては日本連盟では既に制度化問題なし。ゲイについては上記の通り。信教の自由に関するものをまず解説
公・私教育とボーイスカウト
・ボーイスカウトの場合は公教育ではない
・ボーイスカウトの教育環境と似た事例として、私立学校の宗教教育。私立学校は「信教の自由」に基づき「特別の宗教教育」を行うことが可。 特別の宗教教育の時間を設けて生徒に受講させることができる。信仰を理由に受講を拒否する生徒についてまで受講を強制することはできない?
 ボーイスカウトの組織運営と信仰心
 宗教団体が育成団体となっているものがあり、その宗教に関連した行事を行うことがある。この場合はその宗教が母胎となっていることを明確にしておけば問題はない。自分の住む地域にその宗教団しかない・.入信しないままその宗派の行事に参加するのは信教の自由に反する可能性。地域の神社の氏子衆との共同イベントなど、地域活動の名目で(その地域の者にすると自然と)宗教活動が行われてしまう場合、信仰の自由を侵してしまっている可能性

W.少年院等矯正施設におけるスカウティングに関する記述
 矯正施設におけるスカウティングに関する記述が散見される。ボーイスカウト活動の青少年に対する教育「効果」を考慮した場合、矯正施設内での活動が「効果が高い」と判断?
 以下、日本、アメリカ、韓国に関する記述を紹介
 日本における記事.椿勇「矯正施設と地域社会(第2回)・美保学園におけるボーイスカウト活動について」刑政第103巻第6号38p(1992)
 ・桑江泰幸「実践レポート・沖縄少年院の短期処遇におけるボーイスカウト活動について」刑政第108巻第2号84p(1997)
 ・秋山高広「地域と深く結びついた奉仕活動―美保学園のボーイスカウト・シニア隊」青少年問題第45巻第9号30-33p(1998)(入手不可)
 ・国内の矯正施設での活動
国内でボーイスカウトの活動を導入しているのは、美保学園(鳥取県)と沖縄少年院の2施設(椿38p)。美保学園においては、当初少年院生の加盟は認められず、少年院内での活動のみが認められるのみであったなど、導入の際にいくつかの障害があったことが記述されている。
 美保学園⇒スカウト活動導入のきっかけは、当時の管区長を始め、管区職員の方々の指導。椿( 38p)に、美保学園の隊登録(米子第9団ボーイ隊)の経緯に関する記述。昭和44年9月に初期登録申請、10月に結団式。広島少年院にも導入の予定があったが、連盟の反対もあり実現しなかったと記述。少年院生のスカウト加盟は初めてのケース、活動は認めるが、加盟登録しないと条件付き。このことから判断しても相手が非行少年であるということが大きな障害になったものと推察される

沖縄少年院
 昭和57年7月、沖縄少年院に短期処遇併設。設置に際して、沖縄の自然環境を活かした処遇の要請。院周辺の自然環境や立地条件を処遇に活用するには、野外活動を教場としているBS活動の導入がもっとも効果的であるとの結論に達した。地域で BS隊長をしていた職員がおり、その職員を中心に、 BS活動を特色とする短期処遇の発足に向けた諸準備に着手。沖縄県連盟は、矯正施設内での発団を快く内諾、発団の準備、院内での指導者講習会、研修所(三泊四日)への職員派遣など全面的な援助

アメリカにおける論文
Kathleen J Block「 Bringing scouting to prison :
Programs and challenges」 The Prison Journal第79巻第2号269-283p(1999)
1992年にメリーランド州女子矯正施設の「 GirlScout Beyond Bars Program(GSBB)」の報告
収監されている母親を持つ子供達に対して 地元ガールスカウトが伝統的なプログラム
母親のいる刑務所に連れて行きプライベートな時間を確保
子供達の人格や自信の確保、母親と別れて暮らすつらさを減少、母親との関係をよくする
韓国での状況に関する記事
立命館大学法学部ニューズレター第19号
徐勝「第1回日韓共同研究 −ソウル・シンポジウム外伝−」立命館大学法学部ニューズレター第19巻 4p(1999)及び松宮孝明「韓国天安少年矯導所および開放矯導所を見学して」立命館大学法学部ニューズレター第19巻 13p(1999)
韓国の天安少年矯導所(韓国の「刑務所」)の収容者全員がボーイスカウトに加入。この中から、国内・国外のジャンボリーに参加することもあるという。

矯正施設とスカウト活動
 日韓における事例は、いずれも東洋的な規律重視の刑務所内の処遇から来ているもの?
 松宮は「隊員の規律正しい行動やジャンボリーへの参加の話には、随分驚いた」と記述。「どうも規律正しい生活というのが苦手な筆者には、この点では、施設外にでる自由を奪うだけであとは外とできるだけ同じ暮らしをさせるドイツの少年刑務所のほうが性に合っていた。」ボーイスカウトの「規律正しさ」が刑務所内での活動に「活用」されていることが読みとれる。これは国内での事例でも同様であるようだ。

X.まとめ −日本のボーイスカウトにおける今後の課題−
BSA et al. v. DALE(米国邦最高裁判所2000年 6月 28日判決)における反対意見(5対4と僅差で少数意見)
 BSハンドブックやスカウトマスターハンドブックを詳細に検討し、同性愛者を排除するという方針が「明確ではなかった」ことを主張。アメリカにおける差別禁止法の適用も結社の表現活動に重大な負担を示すことではなく、憲法に反しないとしている。アメリカ連盟における規定や規則などを調べても書いていないことが、組織内の裁量のみによる「既定の事実」を認めてしまっていいのかという点が問題提起されているのだと理解できる。

<ルール作りと運営>
 これは日本でも、ボーイスカウト運動においては規則が明確でなく、各組織(日本連盟、県連盟、地区)の裁量で行われている行為が大変多い。 もちろん、その場その場で会議での合意はあるが、それが明文化され残されていない。後続の担当の判断基準が曖昧「ビーバー隊の野営制限」や「19歳以上のベンチャースカウト登録制限」など。今回の例では、美保学園での「登録しない」 。本来規則上認められているものが「いつの間にか」認められなくなってしまっている例

<多様な人間の参加に関する意識とルール >
 規則が全てであるとは思わない
 BS運動のように多様な人間が関与し、判断が分かれることの多い運動では、判断の根拠として、規則が重要
 英国でのPORの位置づけ(SFBとPOR) 「よりよいスカウティング」を進めるための組織運営に関しては、規則(=共通情報)の積み重ねの中で柔軟に対応できる組織のありかたを考えるべき時が来ているのかもしれない。ルールを考え「組織運営」の立場からのスカウティング研究がこれから必要なのではないか。
以上
posted by 日本富士スカウトクラブ広報 at 16:32| Comment(0) | TrackBack(0) | EverONwardの会
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